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素劇・白頭鷲と少年-ホープおじさんの旅行記より- Simple Theatre ‘The Bold Eagle and the Boy’
この物語は20世紀最後の年に
テンバ・タナが本当に出会った話です
原作・音楽/テンバ・タナ 構成・演出・振付/関矢幸雄
演出補/花輪充 音楽/豊岡久美香
振付/上田裕子 美術/中地 智 照明/佐久間 巨照
衣装/本田朋子 翻訳・通訳/小泉摩耶
制作/田辺慶一
バンクーバー郊外の晩秋のある晩、日系人の少年ダイソウ・ヤマシロが、たいそう慌てて知人のテンバのところへやってきます。すぐ近くの谷川で、大きな白頭鷲が溺れかけているというのです。
二人は急いで谷川へ降りて行きました。少年の言うとおり、白頭鷲が岩に足を挟まれてもがいていました。流れは勢いを増し、いまにも鷲をのみこみそうです。助けようと近づく二人に、白頭鷲はくちばしをふるって威嚇します。目でもつかれたらひとたまりもありません。テンバは英語で話しかけながら、なんとか岩から救いだそうと試みますが、鷲は攻撃を仕掛けてくるばかりです。
必死に助けようとするテンバ。次第に弱ってくる鷲。気が付くとテンバはいつの間にか母国語のアフリカ語で話しかけていました。すると・・・
演出にあたって
遊玄社の次回作品として、このタイトルで「演出してみたい」と制作の田辺慶一氏に申し入れたのには二つの理由があった。
その一つは、私の20年来ての親友で、国際的芸術家でもあるテンバ・タナ氏が、あのNYの同時多発テロ(2001年)と同じ年の暮れに来日した時のことだった。
私は久し振りに再会するテンバと、これまでもそうだった様に、芸術社同士の想像と創造の談論風発(やりとり)を大いに期待しながら出掛けたのであった。
━━が、予想に反して、私からの話題になると、何故か、暗い話にばかりなってしまうのだった。折角のテンバとの対話も弾みようが無く、却って長い沈黙さえつくる始末。━━と、それまで殆ど話の受け手側に立っていたテンバが、私の心の中に立ち籠める暗雲を吹き飛ばすような、若々しい口調で饒舌り出したのだ。
それは、谷川の急流につき出した岩の隙き間に片足を挟んでもがき暴れる猛禽の、翼を広げたら2m余はある白頭鷲を、素手で抱えて救出しようとしたテンバ自身の体験談に、何か、大いなるものを感じたからである。
そして、「演出してみたい」理由の二つ目は、何とかして谷川にもがく鷲を救け出そうとして、急流に足をとられ乍ら、素手で近付くテンバに、白頭鷲は一層猛り狂ったように刃向かい暴れる。そのとき、テンバは思わず母国南アフリカの言葉で「救けて上げたいんだ!わかっておくれ!おねがいだから救けさせておくれ!!」と懸命に語りつづけたという。すると、ようやく心から納得したように白頭鷲は穏やかになり、すべてをテンバにまかせるようになったそうだ。
この不可思議としか言えない鷲と人間の、魂の真実を、何としても表現したいと考えたからである。
(関矢幸雄)